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 一本槍は破壊の傷跡も生々しい山を見つめていた。

奈良県御所市の西に在る葛城山は、ほんの一時間ほど前に終結した死闘の跡を痛々しいまでに残していた。緑萌える普段の景観は見る影も無い。激戦の痕がそこ かしこに見え、血と死と、肉の焦げる臭いに埋め尽くされている。それとは別に、風に乗って腐った果実の臭いが届いた。吐き気をもよおす程に甘い化け物の臭 い。嗅ぎ慣れたそれは、すでに何処から香ってくるかも判らぬほど濃密にあたりを包んでいる。それらは全て、頭を潰され投降した土蜘蛛と呼ばれる化け物たち から香っている。

豆粒程の小ささの連行されて行く彼らを遠目に捉え、舌打ちした。

投降した彼らは、一旦学園に勾留し学園長の沙汰を待つらしい。妥当な判断だ。人ではないとは言え、投降した無抵抗の者を虐殺してまわるほど一本槍も愚かではない。だが、心の片隅で殺しつくしてやりたいと言う想いもまたあった。

仲間を殺された者として、仇を討ちたいと思う気持ちがじわりと心を犯す。それがどれだけ愚かな事だとはわかってはいても、憤怒の炎は消えることなく在り続ける。

暗い感情に歪む顔を、なんとか抑えようと手を伸ばしたその時、風を貫く音を捉えた。

生存本能の赴くままに腕を振る。手の甲に焼けるような痛み。すぐ傍に叩き落された矢が落ちた。

「誰だっ!」

イグニッションを行い、構えたその先には血だらけの少女が弓を構えて立っていた。歳の頃は10代前半、真黒の髪をおかっぱに切り揃え巫女装束に身を包んだその姿は愛らしいとさえ言ってもいい。怒りに燃えあがった瞳と、血で真っ赤に濡れた体を別とするならば、だが。

有無を言わさず2発目が放たれた。前の一矢よりも格段に速度の乗ったそれを、なんとかぎりぎりで避ける。体を前傾にし、力の限りに地を蹴る。すぐさま次の 矢が迫る。前回り受身の要領で回避しながら少女に浴びせ蹴りを放つ。固い感触が踵を通してつたわった。弓を盾に、すんでの所で防御されていた。

弓の間合いを崩されたと悟った少女は、弓を捨て懐から短刀で引き抜くと無言のまま突いてきた。避けられない間合いだ。常人ならば、だが。

「燃えろっ!」

一本槍と少女の間に人の頭部大の火球が発生し、少女を飲み込んだ。

火達磨になるかと思いきや、炎は服に燃え移ることなく鎮火した。しかしダメージが無かった訳でもないらしく、少女はよろりと後退する。

勝機を見出し、少女の小さな頭に鉄槌を振り下ろす。その瞬間、

「どうしてよ」

少女と目があった。憎悪に瞳を染めながら、大粒の涙を流す瞳を見てしまった。深い、あまりにも真黒なそれは底の見えない谷に似ている。ぽっかりと空いた底なしの瞳に飲まれて、振り上げた腕は止まっていた。

「なんで、私達なにか悪い事をしたの? ただ生きたかっただけなのに。どうしてこんな目にあわなければいけないの? 返して、返してよ。私の家族、私の大事な人を返してよ!」

少女の慟哭が脳を揺さぶる。容赦なく紡がれる言葉に、人間に追い詰められ、迫害された過去の自分が重なった。

仲間の仇を打ちたいをいう思いが消えたわけではないが、それ以上にどうしようもないシンパシーを少女に感じてしまった。直後に衝撃。

腹に生じた熱い感触に、ようやく自分が刺された事を知った。

舌打ちと共に腕を振り回して少女を突き飛ばすが、一本槍もたたらを踏んでその場に倒れこんだ。

急いで立ち上がろうとするも、手は地面を引っかき、足は地面を擦るだけだ。

思った以上にダメージが大きい。力が血液と一緒に流れ出す。

危険だと、焦る視界が幽鬼の如く迫る少女の姿を捉えた。

「死んでよ」

囁かれた言葉は、いっそ静かと言ってもよかったが、そこには万感の想いが篭っていた。家族を殺された怒り、喪った者への悲哀、世界への絶望。今まで向けられたどんな誹謗中傷よりも勝る祈りが凝縮された一言だ。
足掻こうとしていた四肢から力が抜ける。

――これは、呪いだ。

激昂するでもなく密やかに涙を流す少女に正しく一本槍は呪われ、一瞬とはいえこの少女にならば殺されてもいいのではないかと感じた。瞬間、少女の首が飛んだ。

少女の体から、頭部へ送られたはずの勢いの乗った血液が噴水のように飛び出した。あっけに取られる一本槍の視界が赤に染まる。

血煙の向こうに、見慣れた着物姿の女を見つけた。

「サク……」
「不甲斐ない。油断したかヤリ。手負いの獣ほど手ごわい者はないというのに」

侮蔑するでも、憤慨するでもなく淡々と語る朔月は薄ら寒くなるほどに怜悧だった。

「わりぃ」
「謝る必要はない、反省しろ。次は、無いぞ」

同じ事があれば、次は死ぬと示しながら朔月が一本槍の傍らに膝をつく。懐から奇妙な形の笛を取り出すと、おもむろに静かな音色を奏で始めた。白燐装甲だ と、何度も世話になっている身で思い至った。音色に導かれるようにして現われた白とも銀ともつかぬ色の蝶が一本槍の周りを踊る。

朔月の治療を受けながらあたりを見渡すと、すぐそばに離れ離れになった少女の首と体があった。つい先ほどまで一本槍を呪い、殺しかけた少女の骸。

「俺も、奴らも生きたいだけなのにな。ままならねぇもんだ」

わかりきっている弱音を吐いた。生きる為には他者を踏みつけて、殺していかねば生きられない事を知っていた。口にだして弱者ぶるのは踏みつけてきた物へ対する冒涜だと、自身を叱責する。

「オレはそれでも大切な者を守る」

独り言ともいえる弱音に、もう塞がった傷を撫でながら朔月が答える。

横顔に真摯な態度が見えた。どこまでの覚悟と決意があればこれほど澄んだ顔が出切るのかと思うほどに、凛とした表情。

自分には無い強さを感じ取り、一本槍は息を呑んだ。

「は、墓を作ってやらねぇとな」

一瞬でも女の横顔に見とれてしまった自分が恥ずかしくなり、立ち上がった。ふらりと視界が傾く。やばいと思ったが、すんでのところで朔月に支えられた。

「傷は塞がったが、失った血液までは取り戻せない。当分は貧血だろうよ。あまり無理をするな」

礼をのべ、適当な木切れを手に穴を掘り出した。

人1人収めるほどの穴を掘るにはかなりの時間を要する。それが粗末な道具で作るならばなおさらだ。朔月が手伝いを申し出たが、これだけはやらせてくれと1人で続けた。

墓穴が完成するまでには能力者の力をフルに使っても2時間ほどかかった。

首と胴をもとあったようにして、土の中に横たえた。土を被せながら少女のことを想う。

生きたかったと叫んだ少女と自分に違いなどなかった。ただ立場が違っただけだ。人に仇なすか否か。

仲間の仇であると共に、限りなく自分と近しい彼ら。憎んでもいるし、同情もしている。余りにも複雑な感情すぎて定義づけが難しい。

死を悼んでやるか、それともざまぁみろと罵ってやるべきか決心がつかず、ただ少女の亡骸を埋めた地面を見つめていた。

どれだけそうしていただろうか、空から音も無く雨が降り出した。

「涙雨、か」

朔月が空を見上げて呟いた。

一本槍も朔月にならって空を振り仰いだ。死んだ少女が流した涙のように、静かにひっそりとした雨が降っている。

18年前から違うものに変質してしまった雨。世界を異常に導く物質を孕んだ雨粒は、それでも見た目を変えることなくしとしとと振り続ける。そんな空を見上げながら、埒も無い事を考えた。

この雨は、止む事があるのか。止まない雨など無いと誰かが言ったが、果たしてそれは自分が死ぬまでに止んでくれるのだろうか。濡れるに任せ空を見つめる2人に、空は答える事無く涙を流し続けた。

狂った雨が降る。人々の呪いも祈りも巻き込んだ、途方も無い狂気が。
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