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 明けない夜は無く、止まない雨もまた無いとは誰の言葉だろうか。一本槍は1人雨の降りしきる森の中に立ち尽くし、そんな事を思った。

朝は必然として訪れ、いつか雨雲は去るだろう。ノアの箱舟の大雨が40日で止んだように。けれど、その”いつか”は人の生よりも長い場合が多々ある事を知っている者は、はたしてどれだけ居るのだろうか。少なくとも、目の前で眠っている少女に朝は訪れなかった。狂った雨に翻弄され、化け物が跋扈する世界で、平和に生きる事を許されず戦いの中で散っていった。

死者の名前は緋波聖子といった。彼女には墓が無い。別に遺体が無かった訳でも、屠る場所が無かった訳でもない。ただ彼女の生前の希望によって、墓が建てられなかったのだ。獣に喰われ、土に還り、木々の養分になり花を咲かす、そんな死後をこの幼い少女は望んだのだ。

「クソッタレ」

罵りに力が入らない。世界を罵倒する覇気が萎える。怒気よりも何よりも、心を虚しさと悲しみが蝕んだ。

少女の笑顔が頭にこびりついて離れない。

歯が軋む程かみ締めて、唸り声を上げた。笑顔の残滓があまりにも胸を苛む。

ごく普通に生きたのならば、親に愛され友を作り、世界の汚濁も知らず明るく笑う事を許される歳の少女が、老成し過ぎとも言える覚悟を持って戦う事にどうしても納得が出来なかった。

少女にはもっと違う未来があったのではないか。微笑み静かに笑いながら迎える死があってもよかったのではないか。少なくとも、土蜘蛛などという化け物と壮絶な死闘の果てに至る死が、彼女の終着点であるはずがなかった。生前の人柄を知る者として、そう思わずにはいられない。

死者の所属結社の長として死体の確認に赴いた一本槍が見たのは、矢傷と刀傷を大量にこさえ、痛みに顔を歪ませた少女の顔だった。それだけで、彼女の最期がいかに惨たらしかったかがうかがい知れた。

「クソッタレが」

もう一度世界を呪う。今度こそ世界を憎めるように。悲哀に押しつぶされないように。

どうして平穏に暮らせる明日が来ないのだろう。戦って戦って、味方と敵で死山血河を築こうとも、その先にあるのはさらなる闘争の日々でしかない。そんな毎日に怒りを抱く事はあっても、義務感や使命感を感じるようなことはない。

なぜ自分達だけが、この平和な日本という土地で戦いに明け暮れなければいけないのか。学園に入り、世界の裏側を知った瞬間から心の片隅で思い続けた憤怒が、薄紙に燃え移った炎のように勢いを増した。

戦いに喜びを見出すような奇特な性格でもなければ、生と死の狭間でのみ生を実感するような歪んだ生き方をしていない。有り体に言えば、一本槍風太とは普通の男だと自己分析をしていた。戦士の覚悟も、狂人の度胸も自分にはない。ただ生き延びて明日を望む、そんなありふれた人間だ。加えて言うならば、学園の生徒の大半がそういった極普通の人間だと感じている。

何故そんな者達が、しかも年端の行かない者達までもが、血で血を拭う戦場に居なければならないのか。

能力者の義務、世界の平和、そんなものは信じるに値しない。緋波のような少女の死によってしか守れない平和なんて、結局能力者にとっては地獄ではないのか。無能力者という極一般的な人類全体の為の捨て駒、大義のための小事、聞こえは立派かもしれないが、いざその捨てられる立場になればけして容認できる話ではない。

「こんな所で何をしている?」

唐突に後ろに生まれた気配に慌てて振り返ると、そこには見慣れた女――朔月緋雨が立っていた。

「サク? どうしてここに」
「なに、お前があまりに思いつめた顔をして出て行くのが見えたのでな。悪いとは思ったが後を付けさせてもらった」
「糞っ、全然気づかなかった」
「当たり前だ。逆に見破られていたらオレがへこむ」

無表情に語る相棒に溜め息をつく。そういえば穏行や剣術においては、この相棒と認める女に一日の長があった。

「それで、こんな場所に何のようだ?」
「ああ、ちっと知り合いの墓参りにな」
「それは……すまない事をしたな」
「いや、いい。もうすんだしな」
「そうか」

静かに佇む相棒にふと、答えを期待した。自分の中にある不信感と苛立ちの正体を、目の前の女なら知っているような気がした。

「なあサク、どうして俺らは戦わなきゃいけねぇのかな」

唐突な質問に驚いたのか、まじまじと見つめられた。冗談ではない、そう伝える為にけして目を逸らさず、本気を伝えようと力を入れて見返した。

「一言で言うなら……そうだな、守る為だ」

返ってきた答えはあまりに教科書通りだったが、それは自分の求めている物ではない。偽善にまみれ、血に濡れた道徳感など求めてはいない。

「何を? 世界をか? こんな、ガキが命をかけなきゃ守れないような世界をか!?」
「違う」

激昂し、怒りを露にする自分をたった一言で押しとどめた。

「大切な仲間を、だ。結果的にそれが世界を守る事に繋がるのかもしれないが、オレの目的は仲間を死なせないことだ」
「それが、自分の命を削ることになってもか?」
「そうだ」
「そうか」

嘘ではない。目の前にいる相棒からは嘘の気配は感じない。本気で自分の命を削り、仲間の為に使おうとしている。

こいつの自己犠牲もたいがいだ。狂気にすら近い想いに怖れよりも悲哀を抱いた。目の前に居る男が、仲間が、何よりおまえ自身の延命を望んでいると言うのに。

「ここに眠ってる奴はな、まだ中学生だったんだ。まだガキと言われてもいいような、な」
「そうか」
「俺は、こんな世界が許せねえ。ガキが戦う事を強制されて、死んでいくような世界を俺は認めねぇ。もしそれが、世界を守る為だというのなら……俺は」
「ヤリ、お前は勘違いをしている。子供とは言え、彼らには考える力がある。強制されたからと言って、唯々諾々と死地に赴いたわけではない。彼らには彼らなりに守りたいモノがあって、譲れない主義があったはずだ」
「詭弁だ。ガキには物事を正確に推し量れる知識も、経験もねぇ。間違った常識、知識を埋め込んで洗脳するなんざ朝飯前だ。だから、大人はけしてそんな事をしちゃいけねぇ。正しい判断ができる様に導いてやらなきゃいけねぇはずなんだ」
「流石に怒るぞ、ヤリ。たとえそうだとしても、戦う事を彼らは選択した。守る為に、貫く為に、だ。お前の言ってる事は直接彼らを侮辱する事にもなるぞ」
「それこそ、詭弁だ」
「認めろ、ヤリ。子供達はただ守られるだけの存在ではない。自分で選択して、実行するだけの力があるんだ。子守役は、必要ない」
「俺が子守役をしたがってるって?」
「そうだ。お前のやってることは、投影と代償だよ。子供達をみて、お前のそれを重ねて、幸せじゃないと思っているだけだ。そんな彼らを幸せにすることで、自分の過去を忘れようとしてる。そんなものはありがた迷惑でしかない」
「てめぇっ!」

カチリとスイッチが入った。頭が沸騰する。自制もなにもあった物ではない。自分の奥深くの怒りに無遠慮に油を注いだのだ。いくら相棒と認めた相手とはいえ、許せる物ではない。

離れた間合いを一気に零にする。拳を振り上げ、おもいきりその頬を殴った。

いくらイグニッションを行っていないとはいえ、戦闘訓練を受け実戦を経験した者の拳だ。常人ならば簡単に意識を刈り取るそれを、朔月は正面からうけとめた。足を踏ん張り、首に力を入れて踏みとどまる。

「図星か? そうだろうな。でなければここまで怒りはしまい」
「黙りやがれぇ!」

逆の手でもう一度殴ろうとしたが、今度は相手のほうが早かった。死角からの掌打が容赦なく一本槍の顎を下から突き上げた。たたらを踏みそうになる足を気合で押し止め、頭突きを繰り出す。衝撃と共に血が舞った。鼻にまともに食らった朔月が今度こそ後ずさった。

「はっ、どうだ」

台詞は最後まで続かない。僅かに空いた間合いからの回し蹴りが脇腹にめり込んだ。

「がっは」

肺から空気が逆流し、呼気が漏れた。体がくの字に折れる。喉からせり上がる吐き気を堪えて、タックルを仕掛けた。肩口を相手の腹にぶち当て腐葉土の上に押し倒す。

馬乗りになるとその顔に向かって拳を振り下ろすが、それは横から叩かれ目標をそれると腐葉土に突き刺さった。がら空きの脇に、相手の肘打ちが決まる。ぐらりとよろめく体を倒され、今度は朔月が上になる。ハンマーのように重い掌打が顔面を襲った。鼻が焼けるように熱い。軟骨が折れたかもしれない。かまうものか。おかえしに襟首を引き込んで頭突き。

拳、掌打、肘、頭突き、手刀、生身で使えるありとあらゆる凶器を使い殴りあう。

「あああぁあああ!」
「がぁあああああ!」

地面を転がりながら、何度も上下が逆になる。

もう技術も何も無い。ただ本能にまかせ拳を振るい、相手に叩きつける事だけが頭を支配した。拳が焼ける。視界は相手以外映さない。思考はスパークし、暴力に塗り込められる。体中から限界を伝える悲鳴が聞こえる。骨が折れてた。血が噴出した。肉が裂けた。

知った事か。

今世界にあるのは相手だけ。自分の体の状態など知らない。

「うぉおおお!」

もう一度、獣のように咆哮を上げた。





どれだけ殴りあっただろう。気づいた時にはお互い雨が降り注ぐ空を見上げていた。

体中ぼろぼろで、泥だらけになり酷い様だったが不思議と心は晴れやかだった。

「なぁおい、生きてっかサク」
「あれだけ殴ったお前が言うか、ヤリ」
「お互い様だ」
「確かにな」

元気そうな声に、加害者の分際で安堵する。

「痛っ」
「ある程度休んだら蟲で治療してやる。酷い顔だぞ、ヤリ」
「おめぇもな」
「だろうな」

お互いの顔を確認し、見事に腫れ上がった状態に笑い声をあげた。口を動かすだけで顔が火の玉になったように熱く痛んだが、笑いの衝動が止められない。

「何してんだろうな、俺ら?」
「お前が言うな、お前が」

爆笑する一本槍とは対照的に、朔月の声は酷く呆れ返っていた。

ひとしきり笑いと痛みに顔を歪ませてから、今更ながらに気づいた事があった。

「そーいや、悪かったな。きぃ使ってくれたんだろ?」
「なんの話だ?」
「とぼけんなよ。殴り合ってすっきりさせようなんざ、いかにもな手だが……まぁ実際すっきりしたわ。あんがとよ」
「だから何の話だと言っている。知らんな。オレはただ言いたい事を言っただけだ」
「ま、そういう事にしといてやるよ」

鼻を鳴らしてそっぽを向く相棒に向けて、苦笑を隠すことなく表情に出す。こんな青臭い、青春ドラマでも今時やらない手を使う朔月の不器用さに感謝を込めて。


止まない雨などないけれど、人の命は短くて晴れ間を待つ余裕すら無い。だがしかし主観の問題だ。こうして2人、馬鹿をやれる得難い相棒を手に入れられたのならば、この糞ったれの今は、あるいは人生の晴れ間と言えなくも無い。

埒も無い事を考えながら、その日久しぶり一本槍は心の底から笑い声をあげた。
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