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女は力の限り悲鳴を上げた。
目の前の恐ろしい異形に、頭が真白になる。足に力が入らず、冷たいアスファルトに尻餅をついた。
産まれてこのかた、こんな恐怖を味わった事はない。それはあまりに異物で、大きく、グロテスクだった。
目の前のそれが、さも愉快だと言うように肩を揺らし、サディスティックな喜びも露わにじりじりと迫ってくる。
「ヒッ、たす、たすけ」
舌が絡まる。ロクに助けも呼べず、自分はこんなところで死ぬのか。そんなことさえ思う。
目の前の恐怖の具現が、そのときやっと言葉を発した。
「ほーら、お宝だよー」
いきり立った異物、下卑た笑み、目の前の露出狂に女はもういちど叫び声を上げた。
「いーやー! ヘンタイー!」
「そこまでだ!」
その時、雄雄しい声が響いた。
すわ天の助け、と振り向いた女が見たものは、
「闇夜に乗じいたいけな女性を害す悪漢め」
「私たちが来たからにはそうはいかないわ」
「俺たちが貴様にてんちゅーをくらわしてやる」
口々に何か叫びながらポーズを取っている、どうみても子供にしか見えない5人の少年少女がいた。手には木刀や角材といった随分物騒な物を持っているが、いかんせん見た目がアレなのでヒーローごっこをしている子供にしか見えない。
女の顎が、かくんと下がる。何か悪い夢でも見ているのだろうか。それともコレは新手のドッキリか何かで、自分はいつの間にかそれに巻き込まれてしまったのだろうか。後で出演料をもらわなくちゃ、などと思考が空回りする。
「な、なんだ君たちは!?」
「悪に名乗る名は無いが」
「どうしてもと言うなら教えてやろう」
「私たちは」
そこで一拍置かれる。
「鎌倉ガーディアンズだ!」
効果音が聞こえてきそうな程に声高らかに子供たちが叫ぶ。
「ええい、おじちゃんのささやかな趣味を邪魔するとは、パパとママに代わってお仕置きしてくれる」
「そううまくいくかな?」
本人はニヒルに笑ったつもりなんだろうが、まるきり背伸びしている子供で微笑ましさしか感じない。だが、その次の瞬間女が見たものは常識を覆す現象だった。
今さっき、少なく見ても5mは離れていた子供たちがあっと言う間に露出狂の目の前に現れたのだ。
「なっ!?」
「ざんくーせーん!」
「めっさつけーん!」
「ひ剣、おぼろぎり!」
必殺技なのだろうか、叫びながら振り下ろされた木刀に音を立てて男の腕が、足が折れる。
「とどめだ! 男ゴロシバスター!」
もう既に半死状態で転がっている男の股間、いまだいきり立った物に、子供たちの容赦ない攻撃が決まる。
男の哀れな叫び声が鎌倉中に響いた。
「全治3ヶ月、加えてもう使いものにならないそうだ」
そう報告書を読み上げた一本槍に、聞いていた男たちの顔が強張った。骨を折られる痛みより、ゴーストに噛み付かれる痛みより、その痛みはあまりに身近でさらには恐怖であった。
「あ、哀れな」
普段冷静な北胤でさえ少し内股だ。篠田など明らかにその部分を押さえて青くなっている。
女性陣はその痛みが想像出来ないのか、涼しい顔だ。
「っていうか、今回の依頼ってどこ経由? 報酬はちゃんと出るんでしょうね?」
「ここの教師連中だ。報酬は前回のアレの後始末にかかった費用でチャラ、だとよ」
「げ、それって完全なただ働きってぇことかよぉ。アリエナイ、アリエナイぜホサぁ」
「気持ちはわかるが、文句はしまっとけや篠田。しゃあねぇだろ、俺だって嫌だったんだ。つーかホサじゃねぇっつうの」
むくれる篠田に、またアイアンクローをかけようとする一本槍を八百屋が止めた。
「まぁまぁホサ落ち着いてよ。で、その子たち、えーと、何だっけ?」
「鎌倉ガーディアンズだ」
いい加減名称を改めさせるのに疲れたのか、ぶっきらぼうに一本槍が答えた。
微妙なネーミングセンスに八百屋がげんなりとする。
「何なのよそれ。鎌倉のご当地ヒーローかなにか?」
「ごとうちひーろー?」
村形がクエスチョンマークを浮かべる。
「ご当地ヒーローとはですね、地域の活性化を主目的にする地方限定の戦隊物のことですよ。土産物会社、地方自治体などが企画運営を行なっている場合 がほとんどですね。例を挙げるなら『離島戦隊タネガシマン』や『サドガシマン』などがあります。直接見たほうがわかりやすいでしょう。ちょっと失礼」
そういいながら漣がノートパソコンを立ち上げる。ちなみにこれもゴーストタウン産。かぐわしい腐臭が鼻に付く。
「くせぇよぉ。漣、それどうにかなんねぇのぉ」
「無茶を言わないでくださいよ。精密機械なんですから洗ったら壊れてしまいます。っと繋がりましたね」
ネットで先ほどの戦隊物を調べたのだろう。漣が液晶画面を皆に見せた。
「ちょっ、何コレ。タネガシマン、テーマソングとかあるわよ。是非聞かなきゃ」
「な、なんじゃこの絶妙にテンションを下げられる歌は」
「それよりもこっちのサドガシマンがすげぇぞ。戦隊物なのにブルーの名前がシマナガシーブルー、しかも前科持ちぃ。島流しってぇ何したお前ってぇ感じだよなぁ」
とんでもない物を発見してしまったと八百屋、北胤、篠田がはしゃぎだした。
「だー佐渡とか種子島とかはどうでもいいんだ! テメェらいいかげん依頼の内容を聞け!」
佐渡も種子島もどうでもよくねぇ、などと地方愛に目覚めた篠田に怒られたりしたがとりあえず依頼の内容に話が進んだ。
「依頼は鎌倉ガーディアンズの壊滅。言っとくがコイツラご当地ヒーローでもなんでもない。本気でヒーローやろうとして犯罪者を粛清してる」
そこで言葉を切ると重々しいため息と共に一本槍が言った。
「ハグレだ」
その言葉に緩んだ空気が一気に引き締まった。
ハグレとは、広義には学園に在籍していない能力者の事を指すのだが、話にのぼる場合は世界結界に害をなす危険分子の事を指す場合が殆どだ。
銀誓館の目的は世界結界の維持である。もっと噛み砕いて言うならば非常識の秘匿、ありえざるべきものを闇に葬り、常識と言うものを守る事だ。その方針からいくと、一般人に危害を加え能力を隠そうともしない者は、ゴーストと変わらない存在となる。
「構成員は6歳から10歳までのガキが14名。今のところ、露出狂を1人と、浮浪者をリンチしていた不良3人、病院送りにしてる。本人たちは正義の ヒーローを気取ってはいるが、拙い事にもう何人もの一般人に能力を見られている。当然、世界結界にほころびを生じさせるとして排除が決定された」
「ちょっと、いきなり実力行使は酷くない? 銀誓にスカウトするとか、他に幾らでも方法はあるはずよ」
「それがな、こいつら犯罪者を取り締まる事に熱を上げちまっていて、銀誓の方向性には賛同出来ないってんで、もうスカウト蹴っちまってるんだわ」
銀誓館の能力者は一般犯罪には関与しない。なぜならば、そこから能力者の存在が明るみに出て、世界結界の維持に支障をきたす恐れがあるからだ。
能力者が狩るのはゴーストのみ。一般の異常者、犯罪者には一切関与せず、と銀誓館に入学した時に諸々の決まりと共に誓約させられる。
「だからと言うて……まだ子供ではないか」
「大丈夫だ。なにも殺せってんじゃない。適当に痛めつけて抵抗できないようにしてから、能力を封じちまえばいい。そうすりゃ、二度とヒーローごっこしたくても出来ない状態になるだろうよ。もちろん教師連中も殺しは絶対にするなって言ってる」
殺さなくていい、その言葉に結社の空気が幾分空気が軽くなった。
唯一人、一本槍の顔だけが暗い。言葉にはしなかったが、銀誓館教師陣の思惑を聞かされていたからだ。
『もちろん温情では無い。殺しては余計に面倒だからそうしないだけだ。でなければ消した方が早い』と。
さらに加えて、依頼を持ちかけた眼鏡の教師はこうも言った。
『子供を殺すとなにかとメディアに騒がれる。死体を無かったものとする処理対策班も銀誓館に在る事は知ってるだろうが、子供の集団行方不明事件とも なれば警察も黙ってはいまい。本格的な捜査などされたらたまったものではない。そういった危険性もまた我々は容認出来ない。それに比べたら、能力封じにか かる費用くらい大した事では無いのだよ。だからな一本槍、くれぐれも何時ものように殺してくれるなよ?』
まるで命に値段をつけるような考え方、反吐が出るような大人の理論に一本槍のただでさえ険しい顔がさらに深く険しくなった。
陰鬱になる思考を振り払うために、言葉を重ねる。
「ガキどもは全員能力者として覚醒はしているが、メインで動いている5人以外の能力は大したことはない。精々身体能力が少し高い程度だ。問題はこの メインの5人、全員それなりの力を持っている。そうだな、だいたいレベル10程度と考えて問題ないはずだ。戦闘になった場合はこいつらと事を構える事にな るだろうな」
レベル、とは銀誓が定めたルールにのっとり計測を行なった能力の程度だ。あくまで能力を計るもので、実際の戦闘力を測るものではない。喧嘩の強さイコール筋力というわけではないのと同じ理屈だ。
一本槍が、少年少女たちの調査報告書を皆に見せる。
門倉綾音、10歳。女。魔剣士。装備・木刀。スキル・黒影剣。
佐々木祥子、8歳。女。魔剣士。装備・鉄パイプ。スキル・旋剣の構え。
沼瀬晶、10歳。男。ゾンビハンター。装備・角材。スキル・ロケットスマッシュ。
鴻巣聡、9歳。男。青龍拳士。装備・メリケンサック。スキル・龍顎拳。
皆瀬雪耶、7歳。男。ファイアフォクス。装備・ガスガン。スキル・フレイムキャノン。
「銀誓で本格的に訓練をつんでるわけじゃねぇから、バイト能力はねぇし、詠唱兵器もねぇ。スキルだって1つくらいしか使えねぇ。まぁ詠唱兵器が無く ても俺ら能力者は怪我するからそこらへんは覚えとけよ? 俺らの身体ってのは結局一般人と基本はかわらねぇんだからな。要は本業能力と身体能力に優れたガ キだ。参加者は、今ここに居る連中だけでいいか。頑張ってくれよ」
「あれ、だんちょーは行かないんですか?」
「俺は事故った時の怪我が完治してなくてな。一応ついてくが、テメェらのサポートくらいしかできねぇ。メインはテメェら5人だ」
1つため息をついてから、至極真面目な顔で一本槍は漣、篠田、北胤、八百屋、村形のそれぞれに頭を下げた。
「ガキどものやってる事は間違っちゃいねぇ。むしろ良い事かもしれねぇ。けど、放置するわけにもいかねぇ。辛いとは思うが、頼むぜ」
正しい事と良い事、それらは時として相反する事になる。世界結界の維持で世界を守ろうとする銀誓の『正しい事』と、犯罪者を取り締まろうとする少年少女らの『良い事』、それらは相容れないものだ。
やりきれない、と全員の顔に苦渋の色が浮かんだ。
少年たちの正義は間違ったものではないのだ。ただ、この世には1を捨て9を守る正義があり、それこそが大局で見れば人類の為なのだ。それを幼い彼らに理解しろというのは酷な話ではあるのだが。
それぞれ思うところが有るのだろう。重い雰囲気のまま作戦の準備を始めた。
前半ギャグで後半ちょいシリアス。結果はギャグにしようかシリアスにしようか、悩み中。ちょうど5VS5になるから1人1人に焦点を当てた話とかにしてぇなぁ。
今回は導入と言うことで、皆の出番は少なめ。結果の方で暴れさせるつもりなので、期待……はしないでくれれ。プレッシャーに弱いから。微妙な感じで待っててくれると嬉しい。
【ハグレ】完全な妄想の産物。まーでも世界結界の維持を目的とするならば、在野で好き勝手やってる能力者ってマジでゴースト並みに害悪にしかならないだろうよ。
取り込めない奴を粛清するってのも、目的から考えれば決して有り得い話じゃねぇ。
【能力封じ】まぁ半分俺の妄想なわけだが、一応公式設定にも似たようなものがある。ようするにイグニッションカードだ。あれってある意味能力を封じ てるわけだろ? あの技術でもってイグカ製作、没収のコンボを食らわせば一生そいつは能力を使う事が出来なくなるわけだ。作中では結構な手間と費用がかか るという設定。じゃなきゃ一本槍がハグレ狩りしてた妄想話が成り立たなくなるんで。
【ご当地ヒーロー】言っとくけどコレはマジに存在する。タネガシマンもサドガシマンもちゃんと有るぞ。特にタネガシマンはお勧め。気の抜ける歌まで付いてるぜ。