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市街地を離れた森の中に、情報どおり『鎌倉ガーディアンズ』の拠点はあった。
適当な廃材で組み立てられ、辛うじて家と言えなくも無いそこに少年少女たちがいた。
八百屋はそっと、身を潜めた木陰から少年たちを確認した。14人、全員がその場に集まっている。
会話の内容までは聞き取れないが、その雰囲気は伝わってきた。お菓子をつまみながら、楽しそうに彼らは笑っている。
心が、棘が刺さったように痛んだ。
その様はまるきりただの子供のようで、そんな彼らに力を使うのかと思うとどうしても気分が落ち込む。だが、手を下さないわけにはいかないのだ。
共に正義を目指すものとはいえ、その道はどうしようもないほど別たれていた。
――やれる。そうよね、あたし。
決意と共に持ってきた木刀の柄をきつく握り締めた。
手になじんだ愛剣は、持って来ていない。今回の依頼は対象の捕縛、いつもの武器では殺してしまう。各人、非殺傷武器を持って今回の依頼にのぞんでいた。とはいえ、いくら木刀、角材の類とはいえ当たれば骨が折れ、悪くすれば死んでしまうかもしれない。
子供に重症を負わす、ましてや死に至らしめる気など八百屋にはさらさら無い。出来る事なら得意の符を使い無力化したいと思っていた。
一本槍に目をやれば、無言で頷いてきた。始まるのだ。彼が子供たちには見えないよう、静かに腕を伸ばし手信号で持ってカウントを取り始めた。
『5、4、3、2、1』
最後のカウントは取らない。無言で一本槍が飛び出すと、その力を解放した。
「バレット」
一本槍の周りに無数の拳銃が現れる。それぞれが糸に釣られたかのようにふわふわと宙に浮かび、その銃口を子供たちに向ける。
「レインッ」
それが彼の異能の1つ。数多の銃から不可視の弾丸を撃ち放ち、目の前の敵を打ち倒す技だ。
落雷にも似た轟音と、目もくらむほどの閃光が辺りを埋め尽くした。地面と木々を抉り、悲鳴さえも飲み込んで弾丸が走る。
倒壊していく少年たちの秘密基地に、胸の痛みがいっそう強くなる。
たっぷり10秒もの間弾丸を吐き出して、ようやく一本槍は攻撃をやめた。
辺りには吹き飛ばされた木端や土が舞い、子供たちがどうなったかは確認できない。むろん、一本槍は手加減しているだろうがそれでも不安が残る。
静かになったあたりに、自分の呼吸だけがやけに響いた。
子供たちは大丈夫だろうか、と確認の為に出ようとした瞬間、一本槍に真っ直ぐ駆けて来る影を八百屋の目が捕らえた。
「危ないっ!」
飛び出した勢いそのままに、相手の攻撃を弾いた。それは角材であった。子供が持つにはあまりに大きく、振るいにく武器で攻撃してきたのは1人の少年。
使用武器と、事前に渡された写真で相手の名前を知る。
「沼瀬、晶君」
目の前の沼瀬、という少年が名前を呼ばれたことに一瞬驚愕を露わにしたが、すぐに表情を引き締めた。
「お前らは逃げろ! 俺は他の連中を守るっ」
「でも、晶君っ」
「バカヤロウっまたさっきのを喰らいてぇのか! まとまってちゃやべぇ。早く行けっ」
何人か無事だったのだろう。視線は八百屋に向けたままで少年が叫ぶ。直後、4人分の足音が遠ざかっていくのを八百屋は確認した。だからといって慌てたりはしない。その為にわざわざ隠れて機会を窺っていたのだ。
八百屋の背後からも、4人分の足音。待機していた仲間たちが追撃に走ったのだろう。今度こそ少年の顔に驚愕と、焦りの表情が浮かんだ。
「なっ、待てってめぇら!」
「待つのは君よ、沼瀬晶君」
走り出そうとする少年の目の前に木刀を振り下ろした。たたらを踏んで少年が後ずさる。
「仲間を、どうしても守りたいと言うならあたしを倒してからになさい
その言葉に少年が親の仇を見るような目で八百屋を睨んだ。
心に刺さった棘がさらに痛む。子供に、こんな目を向けられるために自分は戦う事を決意したのだろうか。詮無い事だ。そう強がり、かぶりを振ってみても痛みは消えない。じくじくじくじくと痛み続けた。
力に目覚めたとき、沼瀬は親友を1人失った。
共に通っていた剣道道場での試合中、頭が真白になる程の親友との接戦の最中、沼瀬の力は覚醒した。力に導かれるまま振り下ろした渾身の一撃は、友に反応する暇すら与えず彼の脳天を叩き割った。
飛び散る赤、倒れる親友、駆け寄る師範、その瞬間は今でもよく覚えている。
親友は一命は取り留めが、それに限りなく近い物を沼瀬は奪い取っていた。
『いわゆる植物状態という物です。手は尽くしましたが……彼が明日、目を覚ますかそれとも10年後目覚めるか、私たちにもわからないのです。何ぶん大脳へのダメージが激しかったもので』
担当医は、暗い顔でそう語った。
共に強くなろうと誓った仲だった。世界で1番になろうと切磋琢磨した仲だった。その友の未来をこれ以上無いくらい徹底的に奪った。
日々見舞いに行くたびにやせ細っていく手足に、友の家族から向けられる非難の瞳に、沼瀬は追い詰められていった。
自分の力は何のために与えられたのか。親友の未来を奪う為に与えられたなどとは思いたくない。ならば、何の為に。
そんな時、風の噂に犯罪者を倒す集団が居る事を耳にした。少年少女だけで信じられない力を使って悪人を倒す。まるで正義の味方のような彼らに、沼瀬は救いを見出した。
――自分もそこに、仲間に加えてもらえれば。
それは、逃避だったのかもしれない。贖罪だったのかもしれない。それでも、誰かを守ることが出来るのならば、自分のこの親友の未来を奪った力も、自分も、許せるような気がしたのだ。
沼瀬は手に持った角材を握り締めた。握りなれた竹刀とは比べ物にならないほど握りにくかったが仕方の無いことだ。もう沼瀬は竹刀を握る事は出来なくなっ ていた。竹刀を握るとあの時親友の頭を割った感触が蘇りそうで、やせ細った手足が目の前に現れそうで、堪らなく怖いのだ。
「ぜやあぁあぁっ」
吼えながら目の前の女に角材を振るう。今まで、どんな悪人にも避けられた事の無い一撃、風切り音を伴ったそれを、女は事も無げに受け流した。ならばもう一撃、跳ね上げるようにして追撃を放つ。それすらも余裕を持ってかわされた。何度も、何度も繰り返しても掠りもしない。
息が切れ、体からは止めどなく汗が流れた。
届かない。あまりにも女は戦い慣れている。それでも、諦めるわけにはいかない。自分の後ろには気を失った多くの仲間たちがいるのだ。
大きく息を吸い、気力を充実させる。
――これだけは、使いたくなかったんだけどな。
人にはけして使うまいと決めていた技を使う決心をした。
当たれば目の前の女を殺してしまうかもしれない。そういった技だ。だが、沼瀬は決めた。例え人殺しになろうとも仲間を守ろうと。
親友の頭を叩き割った時の恐怖と後悔が湧いて来たが、それを無理やり押さえ込んだ。
角材を正眼に構え、踏み込むと同時に全力を開放した。
「ざんっ、くーせん!」
角材が爆発した。否、爆発したのは角材ではなく接している空間だ。
超人的な身体能力と共に沼瀬が手に入れた異能。本来の力に爆発の反動を加えた一撃は文字通り必殺技だ。あまりにも高い威力の為に、人に振るったことは一度も無い。
スピード、角度、全て問題無い。今までで最高の一撃であると、放った瞬間に沼瀬は悟った。先ほどの一撃の倍はスピードも威力もあるそれを、
「ロケットスマッシュ、か」
またしても女性は打ち払った。
「なっ!?」
驚いた。まるで蚊でも追い払うかのように振るった一撃が、自分の武器の横っ面を引っぱたき、容易く軌道を変えさせたのだ。
「狙いバレバレよ君。そんな一撃、いくら早くても当たりゃしないわよ」
冷や汗が背中を伝う。まるで、力に目覚める前に、師範を相手にした時のような感じだ。どうやって打ち込んでも届かないあの雰囲気を目の前の女は放っていた。
「な、なんなんだよっ、なんなんだよあんたら!」
たまらず叫んだ。こんな奴ら、見たことが無い。仲間たちも自分と同じ異能持ちだが、それにしたってここまで凄くはない。
空中に銃を出した男も、今目の前に居る信じられないくらい強い女も、明らかに自分たちを凌駕しているように見える。
「あたしたちはね、銀誓館学園の者よ」
「なっ」
今日は本当に驚いてばかりだ。
銀誓館、その名前には聞き覚えがあった。いくらか前、自分たちをスカウトしに来た男が名乗っていたのがそこだった。化け物を倒し、世界に平和を取 り戻そうとする正義の味方、そんな印象さえ抱いていた。ただ、神秘の秘匿、ということで悪人を裁く事は出来ないといった1点が気に入らなかったので断った のだが。
「君たちがあんまりにも暴れるもんだから、ね。困るのよ。あんまりその力を公にされると」
「だからって、だからって潰しに来たってのかよ! あんたら、それでも正義の味方かよっ」
「ほんとにね」
憂鬱そうな女の声は、驚くほど近くからした。
「え?」
「え?」
「禁」
八百屋が少年の額に符を貼り付けて短く唱えると、電流をながされたように少年の体が跳ねた。力を失い、倒れこんでくる体を優しく抱きとめる。
「慰めも、なにも出来ないけど、ごめんね」
返事は返ってこない。意識を保つ事を『禁』じられた少年は、符の力が無くなるまで、短くて半日は意識を失ったままだろう。だから、こんな謝罪に意 味はない。受け取る者も、返す者もいない謝罪など意味はない。だが、それでいいい。許しを望んでいるわけではない。救われたいわけでもない。
少年をそっと横たえ、その髪を撫ぜる。強い少年だった。ああは言ったが、正直に言えばそこまで余裕ではなかった。本格的に訓練も積んでいないのに 良くやったと褒めてあげてもいい。そしてその目。幼いのに、強い意志を秘めたいい目だった。もし、銀誓に来ていれば優秀な戦士になった事だろう。だが、そ れこそ詮無い空想だ。
――恨まれる、でしょうね。
胸の痛みはすでに耐えがたい物になっていた。
「終わったか」
見れば一本槍が煙草をくわえながら近づいてきていた。後ろには、手足を拘束された少年少女が見えた。
「ええ、ってホサ煙草吸ってたのね」
「まぁ、こんな時はな」
「あたしにも1本もらえる?」
「いいけど、テメェこそ吸ってたのか?」
訝しげな一本槍から煙草を受け取り、火をつけてもらう。見よう見まねで思いっきり吸い込み、むせた。
「おいおい、大丈夫か? つーか吸った事ねぇなら言えよ。渡しゃしなかったのに」
「い、意外に、心が、狭いわね」
「馬鹿言え、煙草なんてもん吸わねぇほうがいいんだ。これ以上こいつの中毒者なんて出してたまるかよ」
美味そうに煙草を吸いながら、八百屋の手から火のついたそれを奪い取ると、携帯灰皿に押し付けた。
背中をさすって貰い、やっと一息ついたところでふと、気になった事を聞いてみた。
「ねぇ、ホサ。あたしたちって正義の味方じゃ……無いわよね」
「あたりめぇだ」
躊躇いがちにいった言葉を、さも当然と言わんばかりに返された。
「正義の味方ってのはもっと綺麗なもんだよ。例えば、こいつらみてぇにな」
「そう、よね。あたしたちはさしずめ、人類の味方って所かしら?」
「ちげぇねぇ」
一本槍が男臭く笑っている。けれど、その瞳には隠しきれない憂いがあるようにも見えた。たぶん自分も同じ目をしているのだろうと、なんとなく思う。
少年たちを傷つけたくなかった。出来る事なら、肩を並べて戦いたかった。けれど、もしこんな胸の痛みを子供たちも味わうのだとしたら、こういう結果で終わってよかったのかもしれない。大義を振りかざし同族を狩る痛みなど、こんな幼い彼らには負わせたくなかった。
もう一生こんな異能とは係わり合いのない人生を送って欲しい。
千路に乱れる感情に押しつぶされそうになり、空を見上げる。
「ほんっと、やんなっちゃうわ」
煙草が沁みて、滲む視界に映る空は燃えるような赤色だった。
八百屋編 了
1週間かかって1人分、しかも自分でもちょっ暴走しちゃったなって悟ってるってどういう事だよ、俺。
ってぇことで1週間ぶりのご無沙汰、一本槍だぜ。なんのかんので3日ありゃ書けるだろうと当初は思っていたのに、ふたを開けてみれば一人一人にちゃんと話をつけようって暴走しちまって、1人1週間かかったというとんでもない話。いやまじで、モウシワケネェ。
まぁこれにて八百屋編、そしてサポートで出た俺の出番は終わり。次は残りのうちの誰かってことになるわな。大体話はきまってるけど、こういう結果 にはするな、とかこういう考えには絶対するな、とかってのあったら言ってくれよ? でないと勝手に俺が妄想して心情とか書いちまうから。
ちなみに、バレッドレインや八百屋の符術に関しては俺の妄想。実際はこうではないはずだが、あれだ、俺の書いてる話は全部妄想80%くらいで構成されてるからスルーしてくれ。
あー後、バトン回してくれた皆、わりぃもうちょい待ってくれ。このシナリオの結果全部あげたら手ぇつけるからよ。わりぃな。
それじゃ、近いうち、今度こそ3日くらいで次の奴の分仕上げて上げるときまでサラバ。