このページは株式会社TOMMY WALKERが管理運営するシルバーレイン、エンドブレイカーにて活動中のキャラクターに関するブログです。ゲームの内容をご存知でない方、興味がない方はお戻りください。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
少女にとって、生きることは苦痛でしかなかった。
彼女がちょうど四歳の誕生日を迎えた日、両親はそろってこの世を去った。交通事故だった。
幼い彼女にはあまりにも辛い現実だが、地獄はまだ入り口でしかなかった。
引き取り手となった親戚夫妻は彼女にまともな生活を与えず、それどころか日常的に暴力を振るう人間であった。
何か口を開けばうるさいと殴られ、黙っていれば辛気臭いガキだと蹴られた。痛みに耐えかね涙を流せばさらなる暴力が加えられ、食事はまともに与えられず、暗く狭い部屋に押し込められて日々を過ごした。
世界は、優しくない。温かくもない。
少女の世界は痛みと、飢えと、暗闇に満ちていた。
唐突に響いた怒号と悲鳴に、少女は浅い眠りから覚醒した。恐る恐る扉を、常ならば禁じてられている自らの手で開けた。
恐い親戚たちにばれないようそっと、指先ほど開いた先には血の池に沈む夫妻の亡骸と、それを見下ろす男が居た。
ぎょっとした風に、こちらに振り返った男に慌てて扉を閉めた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぶたないで、ごめんなさい」
ボロボロの毛布を被りひたすらに慈悲を請う。
頭にそっと触れるものがあった。
殴られる、そう思い身を硬くしたが、いつまでも痛みは襲ってこなかった。変わりにゆっくりと、まるで壊れ物を扱うようそっと、ろくに風呂にも入らず伸ばし放題だった髪を男は梳いてくれた。
「ぶたないよ。私は君になにもしない。辛かったね。もう、大丈夫」
少女は、悪夢が終わった事を直感的に悟った。
「すまねぇ、ちっと仕事を手伝ってくれ」
結社に入るなり、一本槍は口を開いた。
「敵はリビングデッドが一体。障害になりそうな一般人は一人」
一呼吸入れると周囲を見回し、状況を読み上げる。
対象の名前は藤森浩介。心筋梗塞によって急死、後にゴーストとして黄泉帰り、直後妻めぐみを捕食。さらに遠く離れた街で田中宏、和江夫妻を捕食し同夫妻の養女として預けられていた少女、美幸を連れて現在も逃亡中である。
「潜伏場所及び行動スケジュールはすでに割れてる。ただ問題は、障害として考えられているこの譲ちゃん、対象を憎んでいない。むしろ慕っているってことだ」
「それは、ストックホルムシンドロームという奴か?」
一人の能力者が尋ねた。
「ちげぇな。譲ちゃんは養父母に日常的に虐待をうけてたらしい。ま、そういうことだ」
苦々しい想いと共にため息を一つついた。対象は、少女にとって養父母を殺した憎き相手ではない。虐待から救ってくれたヒーローのような存在だろう。
「対象は今はまだ譲ちゃんに手を出してねぇ。が、時間の問題だろうな」
予報士は余さず対象の苦悩と葛藤を”視”た。
突然の食欲に突き動かされて愛する妻を食った絶望、人の肉を美味いと感じる怖気、肉を食らいたい欲望を抑え一人さまよう孤独、その全てが真っ白なレポート用紙に綴られている。
末尾には、対象は崖っぷちに居ると注意書きがあった。
少女への保護欲と絆が深まれば深まるほどに強くなる食欲が拮抗し、対象の精神は崩壊寸前だという。
「猶予はそんなにねぇ。ろくに作戦を練る間もねぇかもしれねぇが、頼むぜ」
一本槍は深々と頭を下げ、次いで詳細がプリントされた用紙を配る。
対象が現在潜んでいるは今は使われていない赤の他人の別荘。周りに人気は無く、少女以外の目撃者の可能性は無しと思っていい。ただ、対象と少女は四六時中行動を共にしており、そこが最大の問題となるだろう。
眠らせるか、それとも現場の記憶を弄くるか。どちらにしろ、少女に二度目の喪失を味合わせる事は必至だろう。
「あるいは」
一本槍は予報士の戯言とも取れる言葉を付け加えた。
男は、自らが化け物である自覚がある。ならば、説得し彼女の元を去るように仕向けることも可能かもしれない、と。
「コレは相当にリスクの高い賭けだ。やるかどうかは、おめぇらで判断してくれ」
締めくくると、能力者たちは急いで出かけていった。
――『美幸』、幸あれと望んだ名前だろうに嬢ちゃんの現状、そして未来も……皮肉が過ぎるぜ。
一本槍以外誰も居ない部屋の中、彼の愚痴がこだました。
偽シナとして一時期考えていたもの。まぁ使う機会がなかったわけだがな。
PR
この記事にコメントする