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「さてテメェら、依頼だぜ」
さらりとそんな重大発言をかましながら、結社に入ってきた男は一本槍・風太。ここ、貧乏人の巣窟【銃道商店】の団長代理補佐心得というケッタイで長い肩書きを持つ男だ。鬼瓦の如く厳めしい面構えゆえ、一家に一人魔除けで欲しいと近所の奥様がたから好評である。
そんな男が、どうしたことか石膏で固められた腕を三角巾で吊りながら入室してきた。
「だ、だんちょーその怪我どうしたの!」
やや舌足らずの口調で質問をしたのはこの結社の最年少、なんと6歳にして能力者家業をしている村形・雛子。ただいま第一次反抗期の真っ只中にいる微妙なお年頃の少女である。
「団長じゃねぇ。団長代理補佐心得だ」
「そんな長い役職名で一々呼べるわけないじゃない。団長、もしくは略してホサで充分よ」
細かい事に拘る一本槍に呆れたように返すのは八百屋・タマキ。クールに見える外見とは裏腹に結構な人情家と結社内で評判の少女だ。結社での裏のあだ名は姐御。一本槍が言っているだけだが。
「ホサとか俺は何人だよ。だいたいなぁ忘れてるようだがここの団長は火炎車ただ1人だろ? 俺は奴の代役でしかねぇんだよ」
話に上った火炎車・義明は大分前に借金のカタにマグロ漁船に乗っただとか、ヤの付く自由業な兄貴たちに内臓を売られただとかで行方不明中。度重なる調査にも関わらずその行方は誰にもわからなかった。
「そんなこと言ってもね、あたしも雛子も一度も顔見たことないわよ。今日結社に顔出してる人ではホサ以外で知ってるのは篠田君ぐらいじゃないの?」
そう言って八百屋が初期メンバーの男に顔を向けた。ちなみにホサはもう彼女の中で固定らしい。一本槍は誰にもわからないように隅でさめざめと泣いた。
「ん、団長は男の中の男だったぁぜェ。惜しい人を亡くしたもんだァ」
口をアヒル口にしながら白々しい嘘泣きを展開しているのは篠田・春一。無造作に跳ねさせた赤茶色の髪と常に眠たげな二重の瞳が特徴の男だ。未確認情報だが最近ゴーストタウンと呼ばれる廃墟にて、メイド服と掃除機型ハンマーを持って大暴れしているらしい。まさに外道。
「私も火炎車団長のことなら存じてますよ。ミリタリー服をこよなく愛する好漢でした」
「わっ、居たのかよ漣ィ」
「いいリアクションありがとうございます、篠田さん。一時間前から隠れていたかいがありましたね」
篠田のすぐ後ろの壁が突然はらりと落ちたかと思うと、その後ろから一人の男が姿を現した。漣・雨水、ある没落した忍の末裔で、若き当主でもある。最近はしょっちゅう忍術の稽古という名目でこのように団員を驚かせて遊んでいる。
「だー話が進まねぇ! 依頼、依頼だぞテメェら! この結社創設以来初の依頼だ」
マホガニー製の机、と言えたらカッコイイと内心で思っている学校机を叩きながら一本槍が吠えた。
「どうどうホサ。ほら怒るとまた血圧があがるわよ」
「けつあつが上がるとどうなるんですか? だんちょー死んじゃうんですか!?」
「血圧を下げるいい薬がありますよ。我が漣家に代々伝わる丸薬です。あ、別に変なものは入ってないですからどうぞ」
「つーかホサで定着しそうだなぁホサ。マジウケルぜぇ。あ、痛い、イタタ。ちょ、ホサ指食い込んでる食い込んでる。頭蓋骨に食い込んでるってぇ」
煽る者、素ボケを晒す者、イタズラを仕掛ける者、一本槍の制裁を受ける者、結社は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
結局落ち着いて一本槍が依頼内容を語るまでにさらに30分の時間が流れた。
「で、依頼内容だ」
来た時と比べると随分疲れた顔で一本槍が話し始めた。その後ろでは何故か着衣を乱した篠田少年が滝のように涙を流していた。八百屋が邪悪に笑い、漣は「南無」と合掌して、それぞれの携帯でもって写真を撮っている。後で写真部にでも流すのだろう。
「依頼主は高校1年の宮小路瑞穂。依頼内容は移動購買部からのパン購入。期限は1週間」
「ちょっ移動購買部っていったのか!? 移動購買部ってあの移動購買部だよな、ホ、じゃない団長代理補佐心得!」
襲われた少女のような状態から脱すると、口から唾を飛ばしつつ篠田が食って掛かる。何故か一生懸命一本槍の役職を強調している。よっぽど先ほどの アイアンクローから大外刈、マウントポジションをとって唾を落されるコンボ『君が泣くまで垂らすのを止めない!』が効いたのだろう。
「いどーこーばいぶ? って何ですか?」
「移動購買部とはね、雛子ちゃん、この銀誓館学園全てのキャンパスを移動しながら物を売る購買の事よ」
「え、でもこの学校って鎌倉中にあるですよね?」
村形の疑問はもっともだ。銀誓館学園は能力者、非能力者あわせて2万人を超える超怒級のマンモス校だ。増築に次ぐ増築だけでは間に合わず、鎌倉市 に新たなキャンパスをいくつも作る事によってやっとこさ全学生を収める事が出来たという非常識ぶり。なんとキャンパス数は20、1キャンパス少なくとも千 人の計算になる。それだけでも1つの学校としては大きな部類になるのに、それが20。当然1箇所にまとめて建てるなど土地の問題から認められず、北は大 船、南は江ノ島まで鎌倉市のいたるところに銀誓館学園のキャンパスが点在するという異様な様相を呈している。
移動購買部とは、その20あるキャンパス全てを周り物を販売する購買なのだ。さらに異常とも言えることには、
「移動購買部は昼休みの50分の時間で全てのキャンパスを周りきるらしいぞ」
「え?」
高速を使って法定速度オーバーで走ろうが、南北、さらには東西にまで点在するキャンパスをたった50分の間で、すでに其れは人の所業にあらず。ゆえに付いた二つ名が、『韋駄天』。
今まで彼の者に挑んだ者は数知れず、しかし無事『韋駄天』より物を購入出来たものは極少数だ。『ハイスピード』李麗華、『天駆ける者』巴武士、『疾風』浅井腱二、二つ名持ちの中でもさらに機動、スピードに長けた者だけが、そのパンを購入する事を許された。
「ってゆうか、そんな利用者いない状態でよく経営が成り立つわね」
「なんでも老後の道楽としてやってる事だから、別に儲けは期待していないって話だそうだ」
呆れが多分に含まれるため息を一つついた。趣味に生きる老人ほど無敵なものはない。
「ターゲットの詳細だ。移動購買部の従業員は唯一人。『韋駄天』米倉米、82歳。移動に使う車両はマツダオート三輪GB型。カタログスペックは、単 気筒SV・701ccのオールアルミダイキャスト製エンジン、最高出力15.2HP。エンジンとトランスミッションはロープレッシャーダイキャスト法を用 い、アルミ合金で一体鋳造とされ、車体の軽量化に貢献している。最大積載量は500kg」
報告書にある項目を読み上げるうちに一本槍の頭の上のクエスチョンマークが増えていく。なんちゃってバイク乗りには意味のわからない単語があったのだろう。
「まぁとりあえず、カタログスペックのままじゃあ『韋駄天』と呼ばれるほどのスピードは出ねぇのは確かだ。たぶん相当イジッてるんだろうよ。写真はコレだ」
いいながら団員に寄越した写真には、二輪車に無理矢理リヤカーを括りつけたような奇妙な乗り物があった。
「オート三輪って呼ばれる乗り物だ。戦前、戦後にかけて作られたが後にヨツワのトラックに取って代わられた前時代の遺物、まだこんなん乗ってる奴がいるなんて正直たまげたぜ」
前時代の遺物に齢80を超えるご老体、さらにはただの一般人がイグニッションをした二つ名もちの能力者と互角以上の速度勝負を展開している。
「どうなってんだよ世界結界ィ!」
聞けば聞くほど摩訶不思議な現象についに篠田が切れた。部屋の窓を開け放つと夕焼けに赤く染まる空に青春の憤りをぶちまける。
「落ち付け士農田、もとい篠田。でだ、この婆の武勇伝はそれだけじゃねぇ。某峠でその人ありと言われた豆腐屋の息子、カウンタック乗りの兄ちゃんな ど並み居る走り屋連中をキャンパスからキャンパスの移動間、まるきり片手間に完敗させ、さらには俺が愛車で挑んだ時には歯牙にもかけずに轢き倒していった という鬼女みてぇな極悪婆だ」
一本槍の骨折は無謀にも彼女に挑んだせいで負った物らしい。
団員の中になんともいえない微妙な空気が流れた。その空気を代弁するなら『ろくにテクも無いくせになにイキがってんだか』である。
「この婆の捕縛、もとい購買からのパン購入がこの作戦の成功条件だ。報酬は依頼主が自ら編んだマフラーだぜ。ちなみにこの依頼主、宮小路瑞穂は一年 生にして学園にファンクラブがあったり、ミス銀誓で優勝をしたりと何かと人気の高い奴だ。そいつの手編みのマフラー、末端価格が幾らになるか俺にも想像が できねぇ」
マフラーと白い粉末を混同している一本槍に、団員全員のため息がハモった。
「目指せ、脱貧乏! 気合入れて行ってこいよ!」
「おー」
一人でヒートアップする一本槍に、やる気の無さげな団員の声が続く。
銀誓は今日も今日とて無意味に平和である。
オレサマ妄想話二回目。かつちょっとこんな結社クエストあったら楽しいだろうなぁというものを依頼のOP調に書いてみた。
団員の名前を無許可で使ってたりしてるので、まぁ苦情は聞く所存。こんなんアタシじゃない! とか俺の口調はもっとこうだ! とか勝手に名前使う なや! ってのが来たらすぐさま修正・削除するので言ってくれ。ちなみに人選は「勝手に使ってもコイツゥで許してくれそうな奴」という酷く曖昧かつ妄想か らのチョイス。
ちなみに銀誓館キャンパスが20あるってのは本当。図書館で調べると判るぞ。で、鎌倉市中に散らばってるってのと、在校生2万人ってのが妄想っつーか俺の推測。
ハイスピード、天駆ける者、疾風(ハヤテと読む)、の二つ名持ちの彼らは某所から頂戴してきた名前。まぁわかる人にはわかる。全部当てられたらマジすげぇと言っておこう。と言うか自分が出てきて正直かなり嬉しかったな。
韋駄天婆か・・・妖怪みたいだね。
依頼は成功するのかしら?続きが読みたいよ~。
と言う事であたの名前はじゃんじゃん使ってくれて構わないよ!ホサ。
むぅ、出すなや! ってのが来ると思ってただけに嬉しいもんだ。
期待に沿えるよう韋駄天婆は……きちんとカタつけた話を書くか。
ちなみに、ホサじゃねえええええええええええ!