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身も凍るようなある夜、一本槍風太は一人の男を尾行していた。
目算で十メートル、一本槍の前を歩く男は、背後からでも判るほどの堅気ではない雰囲気があった。
平均より遥かに太い四肢、広い肩幅、頭をしっかりと支える首、短く刈り上げられた頭、それだけみれば格闘技をやっている人間に見えなくも無い。ただ、その雰囲気が違った。暴力を楽しむ、人を傷つける事を快楽とする者特有の空気がその全身を包んでいた。
そんな臭いをばら撒きながら、人通りのない道を無防備に歩いている。まるで自分が王にでもなったかのような振る舞いだ。この世の誰にも自分を傷つける事が出来ないと、無知な能力者にありがちな勘違いをしているのだろう。
鴻巣優二、それが男の名前だった。作戦前に目を通した書類の内容を思い出しながら、一本槍は男の後を尾ける。
鴻巣優二、16歳。近隣の不良たちの頭であり青龍拳士の能力者として覚醒済み。能力をつかった傷害、強盗、強姦事件は数知れず。一般人にとっては恐るべ き力をもった人物なのだろが、能力者としての評価は下の下。とてもではないがゴーストと戦う戦士の器ではないと判断された。
つまりそれが、この男が生きる事を許されなかった理由だ。
男が目の前の角を曲がる。
作戦ポイント、ここで殺すべしと定められた地点に男が踏み込んだ。
「イグニッション」
呟くと同時に、今まで着ていた服が一瞬で消え、真黒のスーツと無骨なハンマーが現れる。力の解放に体が歓喜の咆哮をあげた。
アスファルトを削る勢いで走り出す。減速もそこそこに無理矢理角を曲がる。十メートル以上離れていた男との距離は、一瞬でゼロになった。
「なっ!?」
勘のいい男だ。直前になって気づいたようだ。けれど、遅い。
ハンマーを横薙ぎに振るう。命中。男が吹き飛び、近くのブロック塀にぶち当たって止まった。そのまま力を失い、ずるずるとその場に座り込むと盛大 に咳き込んだ。咳に混じり水音が響く。喀血しているのだろう。だがそれでも、生きている。咄嗟に体を捻ったのだろう。心臓を狙った一撃は僅かに狙いを外し たようだ。
「な、んだ、テメェ。どこの」
男が血と咳に喘ぎながら此方を睨みつける。しかし、その眼光はすでに濁り始めている。男に近づきながら観察すれば、先の一撃は男の肺を潰していた。。明らかな致命傷に、命が消えさろうとしているのが判る。
「だまって、んじゃ、ねぇぞ、てめ」
喚く男を無視して、ハンマーを振り上げる。
「恨んでくれてかまわねぇよ。化けて出たら、また殺してやる」
「やめ」
悲鳴は、聞こえない。止めを刺す手が鈍る言葉など聞く必要が無い。せめて苦しませぬように力を込めた一撃が、男の頭蓋を粉砕した。
飛び散る脳漿と鮮やかな紅。返り血をいくらか浴びたが、気にもしない。どうせイグニッションを解けば臭いも汚れも何も無かった事になるのだから。
男の割れた頭を一瞥する。脈を取るまでもない。男は今度こそ完全に死んだ。
懐から携帯を取り出すと、近くで待機しているはずの処理班に連絡をした。
「終った」
「そうか」
それだけの会話をすると携帯をしまう。
少しも待たずにスモークガラスを施した黒塗りのバンがやってきた。
扉をスライドさせて、白衣の男たちが降りてきた。そのうち二名が死んだ男を死体袋に詰め込み車の中に運び込む。残りの人間はその場の洗浄を行な う。専用の機材を使い、血、脳漿、男の残留物を一つも残さず洗い落とし、回収する。死体となった男自身はこれから欠片も残さず溶かされるか、魚の餌になる かの処理を施されこの世から消える。鴻巣優二などという存在が、元からいなかったかのように。
死体も何も残らなければ、事件にはならない。精々心配した者たちが捜索依頼を出し、行方不明者扱いになって終わりだ。それも事件性が見られなければ、すぐに捜査も打ち切られる。
自分は運がよかったのだ。同じ能力者を狩るたびに怖気に似た感情が一本槍を襲う。
もし一歩間違えば、こういう風に処理されるのは自分のほうだったのだ。
世界結界の維持を標榜する銀誓館学園のやり口は徹底していた。取り込めるならよし、取り込めず、世界結界にダメージを与える人物と判断されれば、正義のお題目の元に消される。
頭を振って嫌な考えを追い出す。もし、なんて考えるだけ無駄だ。こうやって汚れ仕事をさせられているが、自分は生きている。それだけでいいのだ。
煙草に火をつけると、空に向けて紫煙を吐き出した。夜空にたなびく白は、やがて黒に呑まれるようにして消えた。
なーんとなく思いつきでシルバーレインの世界設定の裏側を書いてみた。もちろん妄想100%なのであしからず。
学校に所属してない能力者はどういう運命をたどるのかなぁと。銀誓館にスカウトされるか、リリスに襲われるってのが一般的だろうけど、能力を犯罪につ かってるやつらがいたら? 大半はこっちだと思うんだわ。俺だって銀誓に来る前は結構ヤバイ事に手を染めてたって設定だしな。
まぁそんなこんなで、容赦の無い銀誓館学園妄想でした。ちなみにまだまだこういうネタがあったり。
またそういうネタを使って書くかもしれない。俺が馳星周作品(漂流街、不夜城、他)やら福井晴敏作品(川の深さは、亡国のイージス、他)やらが大好きだから、陰謀だらけの話になるか救いの無いドロドロ話になるかの二者択一、むしろドロドロの可能性大。